高血圧を理解し、できるだけ早く
治療を始めることは、自分の腎臓を
長く守ることにつながります。
血圧が高い状態が続くと、血管に大きな負担がかかるため、血管は硬くもろくなっていきます。こうした動脈硬化が進行すると、脳や心臓、腎臓などの臓器が障害され、さまざまな合併症が起こってきます。なかでも腎臓は血管が豊富な臓器であるため、動脈硬化が進行しやすく高血圧の影響を受けやすいといわれています。
体内で生じた老廃物は血液によって腎臓に運ばれ、毛細血管の集まりである糸球体という部分でろ過されて、尿として体外に排泄されます。しかし、高血圧が進行すると糸球体の細い血管の動脈硬化が進み、糸球体高血圧からやがて糸球体硬化という状態になり、尿にタンパクが漏れ出すようになったり、ろ過機能が低下してくることになります。また、ナトリウムや水の排泄がうまくできなくなるため体液が増加することで、血圧がより上がりやすくなります。つまり高血圧が続くと腎障害が進み、腎障害が進むと高血圧が悪化し腎障害はさらに進む――というように、悪循環が繰り返されるのです。このように、高血圧と腎障害は密接に関係しており、高血圧患者さんの約3割は腎障害を合併しているという報告もあります。しかしながら、高血圧や腎障害は初期には症状がほとんどないため、ある程度進行してから初めて気づくケースも少なくありません。健康診断等で血圧が高いと指摘されたり、あるいは尿検査や血液検査で異常が見つかった場合は、速やかに医療機関を受診してください。
10年ほど前に提唱された慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)という疾患概念は、最近では医療者のみならず一般市民においても少しずつ知られるようになってきました。CKDとはタンパク尿や腎機能の低下が3ヵ月以上慢性的に続く状態であり、元の病気は問いません。CKDには5つのステージ(病期)があり、進行すると末期腎不全として人工透析や腎移植が必要となってしまいます。さらに、CKDは心臓病や脳卒中など心血管病の危険因子であることも分かってきました。高血圧があるとCKDになりやすく腎障害が進行しやすいことから、高血圧の人はタンパク尿の有無や腎機能の指標となるクレアチニン値、推算糸球体ろ過量(eGFR)などを医療機関で定期的に調べ、CKDの早期発見に努めていただきたいと思います。
腎障害を伴う高血圧の治療では、血圧を下げること、タンパク尿を減らすことが重要となります。具体的な数値を示すと130/80mmHg未満、さらにタンパク尿が1g/日以上ある場合は125/75mmHg未満が降圧目標になります。そのために重要な治療が、降圧薬と食事療法です。
血圧は体のいろいろなしくみによって調節されていますが、なかでも重要な血圧調整システムがレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAS)と呼ばれるシステムです。その中で放出されるアンジオテンシンU(AU)という物質は、血管を収縮させたり、腎臓でのナトリウムや水の排出を抑えて血液量を増やしたり、血圧を上げる働きをします。そのため、このAUを減らしたり、またその働きを抑えたりする「アンジオテンシン変換酵素阻害薬」や「AU受容体拮抗薬」などのRAS抑制薬が現在の降圧薬の主流になっています。これらの薬には、単に血圧を下げるだけでなくタンパク尿を減らすなどの腎保護作用があることが知られています。しかしながら、腎障害を伴う高血圧患者さんではRAS抑制薬だけで降圧不十分であることが少なくないため、血管拡張作用がある「カルシウム拮抗薬」やナトリウムや水の排泄を促す「利尿薬」などを併用し、降圧目標値に近づけていきます。最近ではこれらの異なった作用の降圧薬の配合剤があり、患者さんの飲み忘れが少なくなるといわれています。
また、食事療法として重要なものは減塩です。塩分の摂り過ぎは血圧上昇やむくみの原因になり結果的に腎機能を悪化させますので、1日6g未満を目標に減塩を心がけてほしいと思います。また腎機能が低下すると、タンパク制限が必要になります。 その他、野菜や果物に多く含まれるカリウムは、高血圧では積極的に摂ることが勧められていますが、腎障害の患者さんではカリウムの排泄が低下することより、制限が必要になる場合があります。これらの食事療法は腎機能の程度によって変わります。したがって、決して独断で行うのではなく、医師や栄養士と相談しながら行ってください。食事療法は「言うは易く行うは難し」の如く誘惑との戦いであり、最も実践が難しい治療法だと思います。まずは自分の食生活を見直し、できること(減塩醤油を使用する、カップメンは食べないなど)から実践してみてください。
その他、高血圧の治療における生活習慣の修正として、適度な運動(特に有酸素運動)習慣、肥満の解消、節酒、禁煙、ストレス軽減などがあります。この点でも、わからないことがあれば遠慮なく医師に相談してください。
高血圧や腎障害は自覚症状に乏しいため、治療効果が実感できず、薬の服用を止めたり、病院に来なくなってしまう人が見られます。高血圧や腎障害の治療は1、2ヵ月で結論が出るものではありませんが、末期腎不全になるのを遅らせたり、心血管病の予防に確実につながっています。そのことをしっかり理解したうえで、治療を継続していただきたいと思います。私の外来では尿タンパクやクレアチニン値などの検査値を時系列で示し、変化を患者さんと一緒に目で確認することで、治療への意欲向上を図るようにしています。
また、厳格な血圧管理を行うためにも、家庭での血圧測定をお勧めしています。きちんと血圧を自己管理していれば、治療効果が実感でき、薬の飲み忘れも少なくなります。私たち医師が薬を追加したり、変更したりする際の参考にもなりますので、家庭血圧は必ず血圧手帳に記録して、受診時に持参するようにしてください。
腎障害の初期には自覚症状がほとんどありません。しかしながら、たとえば腎障害から来る貧血(腎性貧血)の治療を始めると、「以前は疲れやすかった」「坂道・階段が楽に上がれるようになった」など、症状が改善していることに振り返って気づくことがあります。末期腎不全の進展や心血管病の発症を抑えるためには、高血圧や腎障害の早期発見・治療が重要です。貧血、むくみ、疲労感などの症状がはっきり自覚できたときは、腎機能が低下している可能性がありますので、すぐに腎臓専門医を受診するようにしてください。
また、ふだんから腎機能を悪化させるような生活を避けることも大切です。たとえば、熱中症による脱水やインフルエンザなどの感染症が原因で、腎機能が悪化することがあります。暑い時期はこまめに水分補給を行うほか、風邪や下痢などにも注意し、かかってしまった場合は早めに治療を受けましょう。最後に薬のことですが、他の医療機関で処方を受けている方、通信販売等で購入したサプリメントや健康食品を服用している方がおられます。これらの中には、特に腎障害がある場合避けなければならないもの、あるいは量を減らさなければならないものがあり、時に重大な副作用が起きることがあります。腎臓を診ている病院で処方されている以外の薬やサプリメントなどを服用している方は、医師に必ず申告してください。
血圧のコントロールと腎臓にやさしい生活を心がけ、CKDを予防することで、将来、末期腎不全や心血管病で苦しむ患者さんが少しでも減ることを願っています。
